寿司は酢飯が7割だと言いますが、最近の江戸前は赤酢の舎利が大人気。その中でも熱い酢飯で注目されている築地の吉兆の真向かいにあるお店です。初訪問でランチの4800円のお決まりをいただきました。
御主人は銀座の有名店、久兵衛出身とのことですが、突き出しのわかめ以外にはそういった印象は、あまり受けず、独自の道を切り拓かれているように見受けました。
すし佐竹の2017年11月お昼のおきまり
まぐろ赤身
いわし
真鯛
松川かれい
中とろ
ほたて
かんぱち
かつお(背)
ノドグロ小丼
あなご
ここまでで、一人前(順不同)、鮨種はまぁまぁという水準。悪くはありませんが、格別良くもなく銀座の標準レベルでしょう。ま、ランチのおきまりですからね。
確かに酢飯は熱かったです。飯櫃を開けると、酢酸の発する匂いがぷーんと立ち込める、そのレベル。
握りにすれば、米のデンプンが老化しておらず、ぱらりとほどける食感、口の中で混ざり合います。最も好相性を見せたのは、中トロ。そして焼いたノドグロの小丼仕立て。素晴らしく美味しい。酢飯が強い分、やはり脂のある種は絶妙です。
一方で、真鯛や松皮などの白身やホタテなどの貝には、どうしても厳しい。温度が落ちたところを握っているとはいえ、やはり通常の酢飯よりは温かく、また落ち着かない味です。熱い酢飯はその成分である酢酸が揮発しやすいことや、温度故の味の感じにくさから、酢がかなりきつめになっています。冷めればそれが増強されます。熱くて美味しい舎利と冷めても美味しい舎利は共存できません。
そして、その酸味のために寿司だねを選びます。脂のある、とろや、いわし、うになどには良いでしょう。しかし、薄味のタネにはまったく合いません。親方自身もそれを十分に理解しているのでしょう、おきまりの構成にもそれが伺い知れます。
鮨通ではない連れは、その酸っぱさに大変驚いておりました。また味が濃すぎて疲れるとも。一般人の正直な感想かと思います。
追加で注文しようとしたところ、かんぴょう巻や玉子焼きは用意されていませんでした。かんぴょうや玉子など、注文の少ない種を用意しないのは、明らかにおまかせ一本やりの近年の風潮の弊害です。
小さなお店ですから、多種のタネを用意するのが難しい事情も理解できますが、江戸前寿司の発展を考えるこちらの親方であればこそ、やはり上等のそれを常に用意してほしいところです。この酢飯であれば、甘みのあるかんぴょうや玉子はむしろ相性が良ろしいのではないでしょうか。
いつも思うことですが、赤酢の酢飯は、夜のおまかせをお酒でいただくための味だということです。それも、日本酒と共に贅沢なつまみを供して、鮪やうにといった味濃いタネをどんどん出して、1人2,3万の勘定を請求できる店のものです。
その点で、お好みで好きなものをいただく、白身や貝類や光物などあっさりした味もバランスよく、それもお茶で食べたいという、昔ながらの鮨好きには厳しい時代ですね。江戸前原理主義ともいうべき、この時代にこの矛盾はどうしたことでしょうか。
さて、やや厳しいことも書きましたが、酢飯の温度を変化させて新しい味をつくりだすという挑戦には、大いに賛辞を贈りたいですし、現状の問題点も話好きで勉強家の親方であれば解決できることでしょう、今後に期待したいと思います。