オープロヴァンソーのシェフである中野寿雄氏といえば、長く赤坂のボンファムで腕を奮い、その料理の冴えは広く知られていたものでした。
東京にミシュランが登場する前の80-90年代、日本のフランス料理店ガイドの草分けともいえる、見田盛夫、山本益博両氏が著されたグルマンや、その後継であるエピュキュリアンでも絶賛されていたものです。これらのガイドはミシュランを模していたので、星でその評価を示していました。最終的にはボンファムは確か2つ星まで成し遂げていたと記憶しています。
中野氏はその後、2007年に独立。元の店がある赤坂にも近い平河町にレストランをオープン、それがオープロヴァンソーになります。
2017年1月のディナー
1月の土曜日のディナー、日本で最も安全な場所にあるであろうレストランの1軒、オープロヴァンソー。周囲には首相官邸、議員会館、国会など日本の中枢機関が並ぶものの、夜はとても静か。僕らは溜池山王から歩いて行ったので、15分くらいかかりましたが、麹町の駅から歩けばすぐの場所かと思います。
店内は木の温もりを感じさせるデザイン、店の名前からすれば南仏をイメージしているのかな?あまりそういう雰囲気も感じなかったけれど、そういえば、洗面所にはロクシタンのハンドクリームがあったという話です(僕は気づかなかった・・・)。
ディナーは品数によって料金が決まるスタイル、2皿6480円、3皿で8640円など。今回は3皿で。構成は自由、前菜多めでも、主菜多めでもOKは親切。そしてカルト上の料理名の素敵なこと!! どれも食べたいものだらけ。最近ここまで悩んだことはなかったかも。古典や正統派の料理を主体に日本人の好きそうな、フレンス料理の好きそうな人が惹かれる料理がずらり。今回は注文しなかったけれど、スズキのポワレ、ジロール茸のソテー、ソースアルベールEscalope de loup de mer poêlé aux girolles, sauce Albertや、コンソメスープ 黒トリュフのラヴィオリConsommé au ravioli de truffes、スッポンと季節の野菜を煮込んだポトフPot-au-feu de trionix et légumesなんかもう迷っちゃってしょうがない。近年になく時間をかけて選んだその夜の料理たちです。
・オマール海老 生うに 帆立貝 芋セロリのムースとオマール海老のコンソメジュレ
Homard et sa gelée sur mousse de céleri-rave
・大分臼杵 天然鮑とキノコ 肝ソースとパンチェッタ
Ormeau tendre et champignons, sauce au foie, pancetta
・野生キノコのボルドー風、焦がしエシャロットと焼きチーズ
Champignons sauvages à la Bordelaise, fromage rôti
・舌平目のグラタン“貴婦人仕立て”
Carré de sole gratiné 《 Bonne Femme 》
・リードヴォーのクロカン カルディナール風 ジロール茸と小海老添え
Croquant de ris de veau, girolle et crevettes, à la Cardinal
・フランスブルターニュ産 仔牛ヒレ肉とフォアグラのパイ包み焼き
Filet de veau et foie gras en croûte, sauce périgueux
・モンブラン
・イチゴづくしデザート
前菜1皿目の根セロリのムースにオマールのコンソメジュレは、しっかりとしたコンソメと、これまたしっかりとしたオマールの茹で加減が印象的。今風の生茹でっぽいオマールとは違うのです。そして、しっかりと火を通すことで得られる妙味というのを再認識。
キノコのボルドー風は、輸入のきのこをたっぷりと。ジロールにトランペット、セップもあったかな?酸味のあるソースということだったけれど、あまり酸味は感じず、穏やかな薄味仕上げでしたが、たっぷり食べるということを考えれば、このくらいのほうがいいかも。火を通した生ハムと高相性。
そして、お待ちかねの舌平目のボンファム。シタビラメをワイン蒸しにして、そのダシをソースに用いてグラタン仕立てにしたもの。いや、もうその素晴らしさと言ったら、皿まで舐める勢い、シタビラメも肉厚、シャンピニオンの芳しさ。フランス料理はソースだよなぁ・・・と思い出させてくれます。モダンガストロノミー?何それ?食べ物?って言いたくなる、格の違いを見せつけてくれる料理。やっぱり古典は美味しいよ。
一方、あわびはまぁこんなものかな。美味しいけれど、許容範囲。ソースは肝をベースに・・・ということでしたが、一口目が微妙に甘い気がしましたね。同行者は気にならない、美味しいと申しておりましたが。
仔牛のパイ包みはフォアグラを包み込んで、いわゆるロッシーニスタイル。比較的火の通しがしっかり目、付け合わせはドーフィノワ風のじゃがいも。ソースはやや甘め、どこから切ってもクラシカル。でも、パイ生地は練り込み使用でちょっとペタッとした印象。
久しぶりのリ・ド・ヴォーは外側カリッと中はふわふわ。以前はフレンチというと東京でもよく見かけた食材でしたが、最近はあまり見ませんね。やはりフレンチを名乗るレストランではこういう食材を積極的に使ってほしいものです。日本の地場素材ももちろん良いのだけれど、それだけだと、フレンチの持つ力強さを再現しきれない感じがする。土地柄の相性とでも申しましょうか。日本の地場素材の最高の使い方はやはり日本料理であって、それをフレンチの技法で超えるのは、相当に難しいと思います。
デザートは口頭説明。いちご尽くしのデザートは、下にいちごのフォンデユ、生イチゴ、フロマージュブラン、ソルベ、そしてシトロンの泡。モンブランはシナモンのアイスクリーム添え、しっかり栗、栗。レストランの皿盛りデザートで満足。いくら食べ放題でも、単なるガトーだとやっぱりがっかりしますよね、この夜はそんなことはまったくありませんでした。
食後に中野シェフと少しお話。グルマンやエピキュリアンの話をすると、「あぁ、懐かしいですね・・・」、丁寧な見送りを受けて駅へ。
正統な素材と技法のフランス料理でした。モダンガストロノミー、現代フランス料理を食べても、うーん、何食べたんだっけ?という感想を持つ方におすすめ。美味しい素材をより美味しくする技術で調理する料理たち、激戦区東京フレンチの第1線で30年やれるシェフの腕には、それだけの理由があるのですね。サービスや接客はやや課題かな、もう少し気を効かせていただいてもいいかもしれませんね。これもグルマンやエピキュリアンの時代から指摘されていたような気が(笑)。スペシャリテの舌平目のボンファムはランチ時は要予約、ご注意を。
★オープロヴァンソー
〒102-0093 東京都千代田区平河町1-3-9
電話番号:03-3239-0818
地下鉄半蔵門線半蔵門駅1番出口歩3分
地下鉄有楽町線麹町駅歩2分
Lunch:11:30~14:00(L.O.)
Dinner:17:30~22:00(L.O.)
定休日:日曜日(祝日不定休)